桜を擬人化し心を投影「櫻酔い-HANAYOI」〜五島健司氏の桜世界

「自分の心を表す光景を探し、心で風景を捉える」という独特のスタンスで撮影を続ける風景写真家 / 城郭写真家 五島健司氏。今回は五島健司プロの桜世界をお届けします。

五島(ごしま)氏が30代の頃に桜をテーマに撮影を続け、発表した写真集は独創的で、風景写真の世界で大きな評価を得ることになりました。

初めて五島氏の写真集を見たとき、予想していた桜写真とは全く違う世界観に驚きました。風景写真というよりは絵画に近いような作品。フィルム時代の作品ですが、数十年たった現在でも新鮮で強く心に響く作品になっています。

今回は五島氏に写真を撮った時の思いや状況などを寄稿して頂きました。


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


低く垂れ込めた鈍色の空に錦織る花の波が押し寄せてくる。
この妖しい淫らな美しさに抵抗する力などない。
変幻自在に姿を変え、私を残酷なまでにもて遊ぶ。


私は風景を擬人化して表現することが多いです。桜も木や花として捉えるのではなく、感情を移入してシャッターを切ります。夜桜は「妖艶さ」「狂気さ」があり、ひとりの女性と向き合っているような感覚になります。

(撮影地:福島県郡山市)


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


水溜りに赤い提灯の影を落とす。
その水たまりを囲むように花びらが散りばめられていた。
そこに魂の断片を見た。


福島県会津若松市の鶴ヶ城で、歴史に思いを馳せて撮影した作品です。

鶴ヶ城は幕末の戊辰戦争で新政府軍の猛攻撃を受けました。
会津藩が組織した白虎隊(びゃっこたい)は16〜17歳の武家の少年によって構成されており、戦いに破れた白虎隊は飯盛山(いいもりやま)から炎に包まれた鶴ヶ城を眺め、壮絶な最後を遂げました。

足元の水たまりに映る赤い提灯が、白虎隊の少年たちが見た戦火に燃える鶴ヶ城に見えたのです。桜の花びらは、少年たちひとりひとりの儚い命。

その後20年以上の月日が流れ、私は城郭写真家としても活動するようになりました。この頃、感じていた思いが「城郭」というテーマに繋がったのかもしれません。

(撮影地:福島県会津若松市)


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


この日は夕方から大雨になった。いつのまにか花見客の姿も消え、 独り全身ずぶ濡れで探しあぐねていた。一瞬の出来事である。雨が止み切った花びらが黄金色に輝きだしたのだ。


夜桜ライトアップや快晴での桜はもちろん綺麗ですが、感情移入しての撮影は薄明(夜明け前、日の入り後)や気象条件が劇的に変化する時が多いです。
一瞬のチャンスで何を表現できるかはその時の感性が頼りです。

(撮影地:福島県会津若松市)


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


毎年その優美な姿を披露してくれる枝垂桜。 日中は訪れる人も多いが、 夜は誰一人いない。
闇と静寂のみが支配する世界に浮かび上がったその様は、まさに幻想かつ幽玄な世界であった。
霧雨が優しく身に沁み込んできた。


この桜は日中はお花見で人気のある桜です。ライトアップは行われていないので、夜は訪れる人はいません。妖艶な桜に会うために雨の日に撮影に出向きました。霧雨がソフトフィルターのような効果となり、幻想的な枝垂桜を捉えることができました。

(撮影地:福島県福島市)


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


とある寺の裏山で出会ったそのたおやかな姿に心を奪われた。
竹林の中で可憐な枝を伸ばし、悠然とした時間に身を委ねしな垂れていた。
名もなくひっそりと生きる清楚な女性に思えてならなかった。


理想の女性を桜に重ね合わせて撮影しました。目の前に現れた美しい女性にシャッターを切るポートレートのような感覚で、風景としての桜を擬人化し、作品化しました。

(撮影地:福島県三春町)


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


夕日で空が琥珀色に染まる頃、この光景に出合った。
桜自らが生命の光を放っているかのように輝き、やさしく私の身に染み透ってきた。


このシーンは女性が着物を羽織っているように見えました。幹は女性の身体、逆光に輝く桜の花は着物の絵柄のように美しく、心を奪われました。

(撮影地:福島県福島市)


[ Kenji Goshima Sakura Works ]


仄かに滲む過去と未来、連続する人生のともしび。
現在の連続が過去と未来を形成していく。明日のことなどわからない。
繋がれた過去と未来は風に揺れる提灯たちのように、全てが連鎖しているようだ。
揺れ動くその姿に、心が動きはじめる。


心の在り方によっては桜ではない光景が作品になったりします。桜以外の被写体にも目を向けると思わぬ写真が撮れたりします。

(撮影地:福島県南相馬市)


五島プロの桜写真は、五島氏の公式ホームページに多数掲載されています。下記のリンクから情緒ある桜写真をお楽しみ下さい。「夜桜」「桜」「墓守桜」という3つのギャラリーになっています。

風景写真家 / 城郭写真家 五島健司公式ホームページ「櫻酔いギャラリー」


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