「美瑛」撮影ガイド 〜波状丘陵が織り成すパッチワークの路
初めて北海道を訪れるにあたり美瑛を目的地から外す人は少ないのではないでしょうか。それだけ北海道では絶大な人気を誇っています。美瑛の魅力は何と言っても波状丘陵に開拓された畑が織り成すパッチ模様です。
春夏秋冬すべての季節で美しい表情を見せてくれるため他県からの永住者も多くいます。
十勝岳の残雪のバランスが良いのは6月上旬、ルピナスは6月上中旬。
ジャガイモの花は6月下旬から咲き始め7月10日頃にピークを迎えます。
7月末から8月初旬には秋撒き小麦の刈り入れ。9月には黄辛子の花。
10月中旬に白髭の滝、下旬に青い池の紅葉が見頃になります。
冬はダイヤモンドダストにサンピラー。
どの季節に訪れようか悩んでしまいます。今回は主に夏のベストシーズンである6月下旬から7月上旬の美瑛にスポットを当てて見所を紹介していきます。
初めて美瑛を散策するにあたり最優先事項はまず「びえいロードマップ」を入手することです。
美瑛の詳細な地図と観光スポットが全て網羅されています。
北西の丘に観光案内所があるのでここで入手するとよいでしょう。無料です。他にも駅前の四季の情報館や道の駅で入手できます。
また北西の丘は美瑛散策の起点となる場所でもあります。写真に写っているピラミッド型の展望台からは美瑛丘陵の全容が把握できます。
また観光案内所では今何処の何の花が見頃であるといった詳しい情報も教えてくれます。
案内所の近くには美瑛在住のプロカメラマン菊池氏と阿部氏の写真展示販売所があるので立ち寄ってみるのも良いでしょう。気さくに撮影地情報などを教えてくれます。
美瑛丘陵は大きく分けて2つのエリアからなります。
国道237号を境に北西側をパッチワークの路エリア、南東側をパノラマロードエリアと呼んでいます。
これらに青い池や白ひげの滝がある白金温泉エリアと四季彩の丘のある美馬牛エリアを加えた4つの地区が主な撮影エリアとなります。
次に美瑛散策についてのアドバイスを述べていきます。
美瑛は他のエリアに比べ事前のロケハンが非常に重要になってきます。理由は毎年違う作物が植えられるからです。連作障害といって同じ畑に同じ作物を連続して植えると発育が悪くなったり伝染病にかかりやすくなったりします。
北竜町や女満別空港の観光用ヒマワリが小さいのが良い例です。よって農家の人はこの連作障害を防止するために毎年違った作物を植えます。例えばジャガイモ、ビート菜、小麦、トウモロコシの4年ローテーションを組んだりします。
よって同じマイルドセブンの丘であってもその年に何が植えられているかによって表情が全く違ってきます。
去年はジャガイモの花が綺麗だったのに今年はビート菜で写真映えしないといったことが多々あります。
写真家に人気のあるのはやはりジャガイモ畑と麦畑そして黄辛子でしょう。貴重な晴れ間を有効活用できるように事前に撮影場所を絞り込んでおくことが大事です。
次に撮影に備え車の残燃料にゆとりを持っておくことです。白金温泉の青い池も含めると美瑛だけなのに1日で200kmも走ることになります。
撮影場所の多さだけが理由ではなく美瑛が丘陵地帯であるため隣接する畑であっても撮影に適した時間が午前と午後に分かれたりするためです。すっきり晴れることの少ない近年、抜けの良い日が来れば1日中あっちに行ったりこっちに来たりの繰り返しになります。
ではまず北西の丘から一番近いケンとメリーの木に行ってみましょう。交差点付近には主な観光スポットの標識が立っているので助かります。
立派な駐車場があります。ただしトイレはありません。日産スカイラインのCMのロケ地。その出演者の名前に由来します。
この木の畑だけは観光用なのか毎年蕎麦が植えられています。午前中に撮影。
午後に大雪山を入れて撮影しました。この場所だけでも1日に2回来る羽目になってます。
美瑛の蕎麦の花は7月末から8月初旬にかけて見頃を迎えます。
それに合わせているかのように道路脇にはオオハンゴンソウが黄色い花を咲かせます。
次に親子の木に行きましょう。
この年は秋まき小麦の「ゆめちから」が植えられていました。
この品種は秋まき小麦なのに春まき小麦のように穂がふわっとしていて、それでいて赤味が強いのが特徴です。現在の品種の中で最も写真映えのする小麦です。
7月末の刈り入れ時期に向かってどんどん赤味を増していきます。ちなみに親子の木は3本から成り真ん中の小さい木が子供です。
少し左方向を向くと名前はついていませんが雰囲気のいい木が立っています。
親子の木周辺には駐車場がないので農耕車の邪魔にならないよう路肩ぎりぎりに停めましょう。
なお10時には逆光になります。
今度は民宿kakiの近くの畑。駐車スペースがなく生活道路なので車をごく短時間停めて手押しで撮影しました。
次は午前中のハイライト、マイルドセブンの丘に行ってみます。
通常は並木の近くに駐車して正面から南西向きに撮影するのですがこの年はビート菜しか植えられていませんでした。
しかし斜め手前の道路沿いの畑に植えられていた男爵芋の花が満開でした。
男爵も相当古い品種となりましたが味といい花の美しさといい未だにこれを越える品種はないように思われます。
さらに手前の道路沿いから秋まき小麦を入れて撮影しました。この位置からだと11時で逆光になります。
パッチワークエリアを離れゼルブの丘にやって来ました。
ひまわりやラベンダー等の人気の花を植えてくれています。午前中がお奨めです。
今度は美馬牛エリアの四季彩の丘に行ってみましょう。ここはいつ行っても何らかの花が植えられています。写真は金魚草です。朝8時から開園します。
ここから程近い距離に美馬牛小学校があります。教会風のオシャレな校舎です。
敷地内は立入禁止のため離れた場所からの撮影となります。
近くにはトイレと水場のある公園もあります。
次は新栄の丘にやって来ました。毎年観光用にヒマワリが植えられています。
ヒマワリは開花すると東向きに花が固定されるため日中は午前中がお奨めです。
また夕景を撮るにも人気の場所です。
駐車場にはトイレと水場がありますが少し汚いです。車中泊には静かな場所です。
西側には十勝連峰も見えます。朝日も夕日も見られます。
美瑛において大きな駐車場のある丘はだいたい四方の見通しが良好な場所です。
お昼になったので食事をとった後、美馬牛エリアの拓真館を訪れました。
ここは美瑛の風景写真の第一人者「前田真三」氏のギャラリーでもあります。
今とは違う当時の美瑛の風景を見ることができます。
美瑛で最も有名な写真「麦秋鮮烈」は見ておくべき遺産です。
午後の早い時間は白金温泉エリアの青い池を目指します。
美瑛市街から道道966号線を白金温泉方面に約18km走ると左手に案内板が出てきますので左折します。
すぐに舗装されていない駐車場に着きます。平日でも10時頃から混み始めます。
トイレはありませんので2km美瑛方向に下ったビルケの森か3km先の白金温泉のトイレを利用します。
駐車場から徒歩1分で池の入口に着きます。奥の方に開けた場所があります。
ほぼ東向きの撮影となるため午後が良いでしょう。トップライトに近いほど池の色がよく出ます。
十勝岳も頭だけ見えます。早朝に霧が出ると幻想的です。秋の見頃はカラマツの紅葉がメインとなるため10月中下旬となります。
また冬のライトアップも綺麗です。
青い池に対する美瑛町の力の入れようには脱帽します。
2016年の台風による壊滅的な惨状もたったの1ヶ月で修復してしまいました。しかも以前よりも綺麗になって。また池の青さを保つために冬の間にアルミニュウムの白い沈殿物をごっそり除去しています。
次は白金温泉の白ひげの滝に行きます。青い池から約3kmの距離です。
途中に不動の滝もありますが写真映えしないでしょう。この標識が出てきたらお土産店の前を右折します。
すると観光協会の公共駐車場があります。トイレも併設されています。
白ひげの滝はここから徒歩で2分とかかりません。写真の左奥の橋の上からの撮影となります。
公共駐車場の少し手前を左折すると直近まで車で行けます。
路駐しても邪魔にならない場所ですが、この橋は火山シェルターへの避難経路でもあるためお勧めできません。
白金温泉周辺の案内図です。
橋の上から南東方向の撮影となります。ちなみにこの橋は車両通行禁止です。
反対側の風景です。紅葉は落葉樹がメインとなるため10月初旬。また11月から3月までライトアップが開始されました。
そしてまた四季彩の丘にやって来ました。午後は十勝連峰を背景にできます。写真は風鈴草です。カンパニュラとも言います。
花に感動したらいくらか寄付金を出入り口の箱に入れましょう。それが入場料みたいなものです。
午後は平日でも観光客が非常に多いので写真が撮りにくいです。
次はメルヘンの丘に行ってみましょう。赤い屋根の丘と呼ばれることのほうが多いです。
駐車スペースはありますがトイレはありません。
最近は厳しくて以前入れてくれた場所も今では無理です。脚立を置いてくれているのでこれに上って見ることにしましょう。
幾分俯角を得ることができました。ただし今年はトウモロコシ畑なので写真的には外れ年でしょう。
ここはポストカードにもなっているくらい有名な場所です。新栄の丘からも眼下に見ることができます。
また向かって右側には丘への登り口がありますが景観はそれほど良くありません。
少し左に目を向けると印象的な木が一本立っています。
午後のハイライトの一つ、セブンスターの木にやって来ました。立派な駐車場はありますがトイレはありません。
このカシワの木をセブンスターの木と呼んでいます。同名のたばこブランドのパッケージに採用されたのが由来です。
朝日岳を背景にする場合は午後の撮影になります。
個人的には隣の並木のほうが絵にしやすい気がします。
少し下った道路沿いからジャガイモの花をいれて撮ってみました。
セブンスターの木からケンとメアリーの木までの区間も見通しの良い場所がたくさんあります。
手前の茶色の小麦が秋撒きの「ゆめちから」、奥のまだ緑色の小麦は春撒き小麦です。
美瑛の春撒きの主力は「はるゆたか」です。
それぞれの畑に違った作物が植えられていることに加え丘陵地形による立体感が美しいパッチ模様を形作っています。ちなみに左端の黄色い畑は黄辛子の花です。
さすが北海道。ヤナギランが普通に道端に自生しています。そういえばルピナスも北海道では雑草扱いでした。
ケンとメアリーの木の近くから大雪山といっしょに麦畑を撮ってみました。
赤麦の丘に向かう途中ジャガイモの花が目に留まりました。ポテトチップス用のスノーデンという品種でしょうか。
白くて小さな花が可愛らしいのですが窒素肥料分が少ないと花を咲かせてくれないので注意が必要です。
いつまで待っても満開にならないので、つぼみを見てみるとほとんど付いていなかったということもありました。
午後のもう一つのハイライト、赤麦の丘にやって来ました。
この赤麦の丘はちょうどマイルドセブンの丘の裏側になります。ここの小麦はタクネという昔の品種で赤麦保存会によって栽培されています。歴代の品種の中で最高の赤味を誇ります。
ここは斜め後方から夕日が差し込むので夕刻はその赤さがいっそう引き立ちます。昔の美瑛の麦畑の写真が赤く輝いているのはこの品種が主力だったからです。
左方向に目を向けると旧マイルドセブンの丘の並木が見えます。
北西の丘の近くに黄辛子が咲いていました。信州では野沢菜ようするに菜の花のことです。
北海道では畑の肥やしとして植えられるため時期はまちまちですが小麦の収穫後の9月に多く見られます。
夕刻まで少し時間が余ったのでルベシベ経由でジェットコースターの路をドライブします。
波状丘陵群を垂直に横切っていくためアップダウンが激しく楽しい道です。十勝連峰の眺めも良いです。
1日の締めくくりとして三愛の丘にやって来ました。見通しの良い丘です。
駐車場にはトイレと水場があり車中泊も可能です。
写真では雲に隠れていますが旭岳が良く見え、夏場はこの旭岳方向から陽が昇ってきます。
夕景を何処で撮ろうか迷うところですが今日は雲が無いので三愛の丘で逆光の麦畑を望遠で切り取ることにしました。
夕日の光が強烈過ぎました。以下、美瑛の夕景の人気スポットを紹介します。
新栄の丘の夕景。
美馬牛エリアのクリスマスツリーの木。駐車場がないので邪魔にならないように停めましょう。交通量は非常に少ないです。
月が若い時は少し粘ってみても良いでしょう。
一本の木の夕景。セブンスターの木から北に300m程下ったところから見えます。
邪魔にならない路肩に停めましょう。ここは美瑛ロードマップには記載されていません。
記載されてないお奨めポイントも最後に表示されている関係スポットに載せておきますので参考にしてください。
マイナーなところではマイルドセブンの丘付近も夕景を撮れますが完全な西向きとはいきません。
次は車中泊の場所探しです。写真は美瑛駅の概観です。
駅前には市街地の案内図も設置されているので参考になります。
余談ですが駅前通りの情報交流館の2階は無料の休憩室になっておりキッズルームもあります。27台駐車可能です。
駅に向かって左側に駅前駐車場があり無料です。車中泊も可能です。
道の駅「丘のくら」の駐車場は線路脇と合わせて計40台停めれます。狭いうえに非常に込み合います。
静かな場所で車中泊したい場合のお勧めは憩の森公園です。美瑛駅から約1.5kmの距離です。
本当に居心地のいい場所です。ほんの少しラベンダーが植えられていてこれが満開なら富良野も見頃です。
またすぐそばの美瑛川ではルアーで普通にヤマメが釣れます。入漁料不要で6月から解禁です。川魚は水系によって味が極端に変わります。美瑛川は硫黄分があるため若干苦いです。
駐車場は公園を囲むように数か所あるため、水場とトイレに近い駐車場に停めましょう。
赤でマーキングしている場所です。1つ前の写真が一番便利な駐車場です。
この上の駐車場は日中木陰になり過ごしやすいです。
また美瑛駅から赤い橋方向に駅前通りを400m走ると松の湯があります。21時半まで入浴できます。洗濯機もあります。ただし月曜は休みです。
公園の展望台からは美瑛の夜景が見え、夏場はこの方向から太陽が昇ってきます。
特に朝焼けの人気スポットというのはありませんが夏場は旭岳方向から陽が昇ってきますので背景に旭岳が見える丘なら何処でも絵になると思います。
写真はケンとメアリーの木から少し西に行った場所です。
新区画ダムも隠れた穴場です。近くには新区画公園があり憩の森公園よりもさらに人が来ません。
拓真館近くの丘も綺麗です。あいにく霧が濃すぎて幻想的なのかボケてるのか微妙ですが。
夏の美瑛のベストシーズンはジャガイモの花が終わる7月15日ぐらいまでと言われています。
確かにそれ以降は大雨が降ると麦が倒れてしまうし、7月25日以降は麦の刈り入れが始まってしまいます。しかし麦刈り後の縞模様も非常に絵になります。
また麦稈ロールも見ることができます。牧草ロールと違いこちらは牛の寝床用です。
最近の牧草ロールはサイロを使用せずにナイロンを被せて発酵させることが多いのですが、この麦稈ロールは麦の色そのままです。
最後に外国人観光客の増加に伴い近年の美瑛の撮影環境は厳しくなっています。
立ち入り禁止の看板や柵等が多く設置されるようになりました。また有名な哲学の木も伐採という結末に至りました。農家の人は畑に入られるのを非常に嫌います。
自分の靴の裏に細菌等が付着していた場合その畑の土を汚染してしまうからです。
美瑛町のホームページによると舗装されている道路からの観光はOKだが舗装されていない道路への侵入は徒歩でもNGとなってしまいました。